宇奈月温泉にある「幸せ」を伝えたい
もうすぐ100年。宇奈月温泉が生まれたワケ
宇奈月温泉は、2023年に開湯100年を迎えます。電源開発がきっかけで開かれ、源泉は温泉地から7㎞も離れたところにあります。なんでそんな遠くからお湯を引いているの?と思われるかもしれませんが、そこには理由があります。
そもそものきっかけは、大正6年、電源開発のため黒部川に注目した高峰譲吉博士が、東洋アルミナムというアメリカとの合同会社を設立したことにあります。そのとき、山田胖(やまだゆたか)氏という土木技師が、黒部の電源開発の調査に入り、黒部の地を観光地にするため、3500本もの木をくり抜いてお湯を流す管を作り、試行錯誤の末、温泉の引き込みに成功しました。これによって、人が足を踏み入れなかった未開の地が、一大温泉地として発展したのです。
朝のさわやか散歩。やって分かった楽しさ
私は当初、宇奈月温泉が「源泉が湧かない温泉地」であることにコンプレックスを持っていました。でもいまは、逆に誇りに思っています。先人の苦労が切り開いた、ドラマのある温泉地だからです。
こうした宇奈月温泉の魅力に気づいたのは、実はお客様のおかげなのです。
きっかけとなったのが、20年前に宇奈月ダムができたことでした。ダムを作るためにできた道路が一般開放されたことで、黒部の大自然が間近に観えるスポットができました。
そして、私が15年前に始めたのが「朝のさわやかお散歩」。朝の爽やかな宇奈月温泉の景色をご案内する、宇奈月おすすめスポットの散策ツアーです。
このツアーを始めたのは、観光客の減少に危機感を感じたのが理由です。宇奈月温泉はかつて、アルペンルートをめざすお客様の宿泊所としてにぎわいましたが、周囲にたくさんホテルができたことでお客様が減少。30軒あった旅館が10軒にまで減りました。この状況をなんとかしなきゃと思って始めたのが、「朝のさわやかお散歩」だったのです。
お散歩では、私が子どものころから慣れ親しんできた宇奈月温泉の「いいところ」をご案内していきました。最初からうまくいったわけではありません。でも、あるお客様から「これ10年続けたら本物になれるよ。」と言われました。
そのうち、参加してくださったお客様から「なんで黒部ダムができたの?」「宇奈月温泉の由来は?」など、たくさん質問されるようになり、それ調べ答えていくうちに、宇奈月温泉の魅力が改めて分かり、それと同時にお客様も増えてきまいた。
そして10年後には、お客様が自然と笑顔になる瞬間を創造できるようなりました。
宇奈月には「訪れる理由」がある
「朝のさわやかお散歩」では、見晴らしのよい宇奈月ダムの展望台や、絶景を楽しめるスポットを、お客様同士がゆるゆると歩きます。クライマックスは、山あいの赤い橋をトコトコ走るトロッコ列車に手を振ること。「ヤッホー」と手を振ると、乗客や車掌さんも手を振り返してくれます。
季節ごとに変化する豊かな渓谷美、黒部ダムをめぐる壮大な開発ロマン、山深くから引き込んでいる秘湯の由来、人間と自然が共存してきた黒部の歴史、そして、知らない者同士が手を振り合う温かな時間。こういったものすべてを体感できるのは、ここ宇奈月温泉だけです。
私はいま、自分がやってきた「朝のさわやかお散歩ツアー」を、宇奈月愛のあるガイドを増やすことで、宇奈月温泉全体に広げようとしています。
地元の人がもっと宇奈月温泉を知り、もっと好きになれば、宇奈月温泉は日本のどの温泉地よりも幸せな場所になる。会社も地域も幸せになり、笑顔の中で過ごしていける。そんな状態が、私の望む姿です。